奥ニッポンの浦の魅力を、世界へ。

車は延岡市南浦から北浦へ。古江、市振、直海(のうみ)から大海原を臨みながら、大分県の波当津に降り、丸市尾浦を抜け、蒲江浦へと入っていく。蒲江12浦。大分県最南端の浦々は、海にかぶるように迫る山々で分断され、それぞれが他の浦々と交じり合わない独自の文化を築いている。浦々ごとに異なる暮らしの歴史は、言葉や食、そして人さえも異なる発達を遂げ、匂いや空気感さえも異なる。

曲がりくねった道には、ガードレールというものがなかった。道と海が一体となり、昔ながらの漁村の暮らし風景を織り成していた。浦に入り込む、ひたすら透明な磯の表情は、光と海流の加減で、蒼と碧藍、コバルトブルー、エメラルドグリーンと、通る時間帯や季節によって色合いを変えていく。表情豊かな海と向き合い、寄り添いながら営まれてきた浦々の風景は、それぞれの暮らし文化の香があり、私を強く魅了した。今でも私の「浦々」の風景として、心にしっかりと刻み込まれ、ときあるごとに思い出す。

かつては浦々を融合させなかった山々の横穴に、隋道が抜け、便利になり、ありがたい半面、便利さと少子高齢化の波が学校の統廃合を促している。浦々の独自性をもまた崩していくのではないかと心配になる。このままでは、パレットの上で水彩絵の具が交じり合うようになってしまうのではないかと、おびえる。幼子のとき、居間の柱の影でおびえながら目をつぶり見ていた、「ウルトラQ」というテレビ番組のイントロ音楽と白黒の映像を思い出し、 ついぶるっと震えてしまう。

目をあけてみる。ほっとしたことに、私を魅了した浦々の暮らし風景はいまだ健在していた。この風景は、奥ニッポンが世界へ誇る風景。昔からつながってきた海女のいる磯の暮らし風景を、私はずっと守り続ける運動をしていきたい。この暮らしを未来の子ども達に伝えていくことを目的に、書き続けていくのだ。

イメージ「蒲江」

地域交流誌「みちくさ」も今月で17年目に入る。また、書くだけにあきたらず、「暮らしのなかの旅」という題で150回を越える講演活動を行ってきた。また、広域のエコツーリズムで地域の宝を守ろうと、実際に地域に入り、地域交流コンテンツを地域の人と汗をかきながら作らせていただき、産業や人と結び、文化や自然を「愛」で次世代につなぐ愛の道を作る活動を続けてきた。愛の道なので「アイロード」という名まえの会社を立ち上げ、もうすぐ10年目に入る。

先春4月には、東九州自動車道が福岡から宮崎まで全線開通し、とにかく地域と地域が近くなり便利になった。早く移動できる分、ぜひ高速道を降り、私が感動してやまないスローな浦々の風景の味わって欲しい。黒潮など三つの潮流がぶつかる滋味豊かな海の恵みに舌鼓を打ち、浦の人々の奥深い魅力を味わい、自分の住んでいる地域に戻り、自分の地域の暮らし文化や歴史にも目をむけ、大切にして欲しい。それが私がおもうツーリズムであり、皆で守り、次世代につないでいく地域愛運動である。世界の人々が、これが日本なのだと、感動してもらえる風景や、彼らにわかるインタープリテーション(伝え方)を学び、格別の体験メニューで、受け入れていきたいものである。

「福永栄子」署名
  • 愛で人と人、地域と地域を結ぶ(株)アイロード代表
  • 地域交流誌「みちくさ」編集長