新生「みちくさ」第一号を発刊する際に、一番、応援して下さった方のお一人が上田さんご夫妻であり、今は亡き上田さんのご両親たちであった。大分県蒲江や佐伯、豊後大野など、様々な道の駅を巡り、誌面を置かせていただき、広告協賛をお願いに廻った帰りに、虎屋さんに寄らせていただくのが、本当に楽しみであった。
カレーを作ってもてなして下さった亡きお母さんのことは、今でも具たくさんのカレーを食べる度に思い出しては、もうお会いできないと想うと、涙が出てくる。お父さんはご病気でご不自由な中、左手で一生懸命に書かれた牧水の歌の書の味わい深かったこと。教養と知性にあふれた柔和な人柄と、その笑顔に、いつも少し疲れた仕事帰りの私たちの心がどんなにか癒されたか。
資金もなく苦しかったなか、食事もままならない創業時に、時には外でご馳走して下さった上田さんご夫妻のあったかな心と、地域を想う熱心さ。私とスタッフたちを魅了した。ある男性スタッフは、生まれてはじめてのヴァレンタインチョコレートが、耕市さんからいただいた手作りの生チョコで、毎年2月になると、いつもその話題になる。破れ饅頭など餡子が美味しいので和菓子専門だと勝手に決めつけていた耕市さんは、実は素晴らしいショコラティエであった。耕市さんは本当に奇想天外な発想力と、何よりも実行力がある方で、延岡だけでなく高千穂や日向、宮崎のことをいつも考えて、地域のお菓子を開発し作ってこられた。
上田耕市さんと明美さんがあっての、現在の「みちくさ」だといっても過言ではない。 お菓子屋さんというよりも、地域の発信基地のような虎屋ギャラリーには、いつも無料で楽しめるコーヒーと地域の人たちのアート作品と元気な市民たちが集まる空間がある。本当にありがたい発信拠点。そして、上田さんの創るお菓子の美味しさ。しかも、彼のお菓子には物語と夢がいっぱい詰まっており、季節ごとに楽しみがある。
たとえば夏になると、待ち遠しいのが、パリメールという、延岡の農家さんが作った瀬戸ジャイアンツという品種のブドウ。とにかく食感がパリッとしていて、実に甘く、あまりの旨さにメールを送りたくなるから、パリメール。ブドウが数個、串に刺さり、白いクリームが少しかかったお菓子である。実に何も足さない、何も引かない、実に自然の果物の味わいを最大限に表した自然菓子の一級品。最近は、日本人の心、かき氷をはじめた。天然素材のシロップが私を魅了する。ああ、食べたい。
今日も、上田さんご夫妻のつなぐ愛が、美味しい菓子になり、癒しの場を作り、しあわせを届ける。こだわりもって頑張る生産者の方々に勇気と元気を与える、そんな風の人、虎屋の上田さんご夫婦に、心の中で甘え寄り添いながら、明日からもまた、頑張っていきたい。
- 愛で人と人、地域と地域を結ぶ(株)アイロード代表
- 地域交流誌「みちくさ」編集長