日之影の夕日

「祈りと感謝」山間地の暮らし、心打つ風景に出逢う

昔からの暮らしの知恵を次世代につなぎ、山間地の魅力を未来に残す、日本らしい地域景観や暮らしの豊かさをいかに未来に残していくかを、常日頃、考えている自分に気がつく。どうしたら伝えられ、残していくか?先人から受け継いだ豊かな大地とそれに寄り添う暮らしの価値をいかに現代、生きている人々に伝えていき、価値観を共有できるか?

実はこのことこそが、「みちくさ」のテーマなのである。そして、大げさかもしれないが、今日、日本が取り組まなければならない緊急の課題は、「地方創生」ではなく、この価値観の共有なのではないかと、私は思っている。「人口減少」を心配するというよりは、むしろ少子高齢化など人口の地域バランスを取り戻していくためにも、地域に残る暮らし魅力を伝えていくことこそが大切であると捉えている。

さて一方、世界的に問題なのは、人口が爆発的に増加していることである。今世紀半ばの2050年には、今よりも20億人増の90億人に達すると見られている。そして、近年、どの産業分野においても地球環境を破壊しない持続可能な開発が求められており、農業による食料の確保も地球規模で大きな課題となっている。

国連のFAOは、これまで持続的に続いてきた環境に調和して行われてきた農業システムの素晴らしさに着眼し、世界農業遺産「GIAHS」の認定を開始した。2011年のことである。GIAHS認定により、次世代に継承すべき重要な伝統農法や農業文化を有しながら持続的な発展を遂げている地域の貴重さを説き、これまで世界15ヶ国36地域を認定してきた。日本では8地域が認定されている。九州では2014年に阿蘇地域と宇佐・国東地域の二ヶ所が認定され、続いて昨年2015年12月には、「高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システム」もまた、世界農業遺産に登録されたのである。

高千穂郷・椎葉山は、1000m級の険しい山々に囲まれた山間地だが、厳しい環境下で人々は、森林からの恵みを巧みに活用し、保全しながら、他に類を見ない複合的な農林業システムを築き上げてきた。縄文時代から伝わる「焼畑」に見る循環型農業、木材生産に必要な杉材、椎茸の原木となる落葉広葉樹林、照葉樹林から成る「モザイク林」、総延長500kmにおよぶ「山腹水路」と1800haの「棚田」、「神楽」に見られるコミュニティなど、高千穂郷・椎葉山には、世界に誇るべき固有の山間地農林業複合システムが代々受け継がれ、森林理想郷の伝統農林業と文化を未来へとつむいでいる。これは先人からの知恵の結集であり、日本の豊かさの根源である。だからこそ住んでいる人たちは、今一度、その価値を再認識し、海外の方々を含めた多くの方々の価値観を変えるような地域固有の魅力を発信していかなければならないと信じている。

「福永栄子」署名
  • 愛で人と人、地域と地域を結ぶ(株)アイロード代表
  • 地域交流誌「みちくさ」編集長