仙崎公園から望む西野浦

一年中新鮮な磯物を楽しめ、旬の美味が揃う佐伯市の西野浦。入津湾(にゅうづわん)の東に突き出た半島全体の浦の名で、半島にグイッと入り込んだ浦は、天然の隠れ湾となっており平家の落人伝説も残っている。東九州の海岸には珍しく海の向こうに沈む夕陽を眺めることができ、自分が九州の西海岸にいると錯覚をするほどである。それほど海をぐるっと囲むように入り込んだ浦になっているのだ。この天然の隠れ湾には平家の落人伝説も残っており、アントクやジョウロウ(上臈)貝、大きなワカメにはハバ(幅)という名前が残っており、局(つぼね)の着物の前幅の部分を意味すると聞いたことがあり、魚介の名にもロマンがある。海賊船も泊まっただろう。藤原一族の伝説もある。

漁業風景

半島全体は仙崎山と高平山。その東側には太平洋の大海原が広がっている。天気の良い日には仙崎公園の展望台から海の向こうに四国を望むこともできる。半島全体が天然の要衝となっており、太平洋戦争の時には大砲三基が据えられたが、利用される事はなかった。今ではツツジ公園になっており、ひっそりと大砲跡だけが残っている。 初めて蒲江で取材していた頃、観光協会の会長の橋本正恵さんに聞いたことがある。 仙崎には昔、ドベン石という光る石があり、大海原を航海する船から見ると、石は煌き、方向を告げてくれていた。仙崎の半島は海の航海では大切な海の道しるべであったというのだ。確かめてみたが、すべて口伝で、どこにあったのか、ドベン石の漢字もわからないが、きっとそうだったのだと想われる説得力が、土地の人たちにはある。

西野浦ではたくさんの人達が海業を営んでいる。浦人たちが信奉しているのが、仙崎山の神さんたち。神さんといってもお一人ではないのだ。お地蔵さんや薬師さん、早吸姫など神社の神様だけでもない。海や岩にはもちろん、森の石にも、バクチの木など、木にも野原にもおられ、集落近くの仲川原にもおられる。ご先祖さんたちも忘れてはならない神さんだ。仙崎の神さんは、どうやら八百(やおろず)の神すべての総称であるようだ。

「福永栄子」署名
  • 愛で人と人、地域と地域を結ぶ(株)アイロード代表
  • 地域交流誌「みちくさ」編集長