2017年に感謝して
~人と地域に、愛の道をプラスする新会社を立ち上げて~
どんタロさん神事

今年も暮れがやってくる。時の速さに戸惑うほど、日々は充実し、過ぎてゆく。思い返せば今年1月には、宮崎県奥の村に千年以上前から伝わる百済王伝説をものがたる「師走祭り」に、初めて2泊3日参加した。木城町から日向市の金ヶ浜、東郷、美郷町神門をまたぐ行程を、初めから終わりまで後をついていき、大いに楽しませていただいた。副編集長の有田君などは、かねてより念願であった木城町の比木神社の氏子の仲間入りをさせていただき、祭り全体を氏子として楽しませていただくという栄誉にテンションが上がり、終始、嬉しさを隠せない様子で参列していた。

プライスレスなエコツアー「師走祭りを旅して」

一日目の夕刻、美郷町神門で最後の禊。昨今でも一番といわれた極寒の、禊のシーンでは、待っていたかのように雪が舞い始めた。祭りのクライマックスを盛り上げるかのように風もピューピューと起こり、まさに凍てつく吹雪の中、有田君が小丸川の寒水に頭から飛び込んだ時には、川向こうで一緒に見ていた「みちくさ倶楽部」の会員の皆さんたちと一緒に思わず歓声を上げた。そして互いの顔を見合う。防寒マスクも帽子も外套も雪の子だらけ、まさに雪も凍えているような寒さの中、皆さん、いかにも満足そうにニコニコしていたのが誠に印象的であった。

氏子衆や厄落とし衆の禊ぎ風景

これこそ私が希求していたエコツアーだとも思った。同行者の中には宮崎大学の学生や韓国人留学生、そして韓国語が堪能で韓国の歴史文化にも精通する多胡吉郎先生がおられ、旅全体が学びであった。二度と企画できない貨幣価値を超えるプライスレスなエコツアーであったと自負している。

比木神社の一行
比木神社の一行は神門神社で父王と巡り合う

「師走祭り」は、もちろん観光のために行われているものでもなく、ましてやイベントでもない。いにしえの日向の祭りである。百済王族が日向灘から九州に入るときに漂着し、高鍋、木城、日向、美郷まで逃げ込み、地域の方々がそれぞれ匿い、守り、祀る。年に一度、父王に会いにいく息子の神。その歴史は古く1300年前に遡るといわれ、奈良の正倉院にある宝物と全く同じ鏡などが何点も神門神社に伝わる。それを重要視した、当時の南郷村は、西の正倉院を建てた。

いくつかのお旅所の中には、若山牧水の故郷・坪谷もあり、ひきの神さんの祭りと、彼の著書にも記されている。ご神幸が立ち寄る場所も、古式ゆかしい迎え方も、料理も変わっておらず、地名も残る。新会社では、来年2018年1月26日~28日まで(2泊3日)でこの師走祭りの心を知るエコツアーを実施する。

実篤の世界を旅する

先日、高鍋町美術館で武者小路実篤の日向新しき村の開村100年目に入る(来年が百周年)記念のパネルディスカションのコーディネーターをさせていただいた。当日は、前日の西米良村の山祭りから通しで、鹿児島県やえびの市から参加した「みちくさ倶楽部会員」の方々が参加して下さり、場を盛り上げていただいた。

エコな旅。前日は、山祭りをお手伝いし、早朝、日向新しき村内にある創立記念碑を見た。

「此處は新しき村誕生の地なり すべての人が天命を全うする事を理想として        
我等が最初に鍬入れせし處は此處也 (昭和43年 武者小路実篤)」
と書かれてあった。

実篤は大正7年から7年間、この村にいた。そして、この在村期間に出した作品は単行本だけでも30冊以上であり、代表作の「友情」「幸福者」なども創られ、村から見上げた星空を謳った「君も僕も美しい」など、数々の詩も生まれた。

その後、エコツアーの一行は西都児湯鍋合戦に参加し、午後2時から美術館へ向かう。パネルディスカションでは、詩人の南邦和さんが、この新しき村が日向に及ぼした影響や白樺派のことなどを語られた。南さんの人柄があふれた言葉に皆、引き込まれた。高鍋町の黒木町長は、個人の立場でパネラーを引き受けていただいたが、なぜ尾鈴山に実篤は新しき村を創ったのかについての感想や、実篤の石井十次との関係などを語られ、大正デモクラシー、大正ロマン、民藝運動などを引き起こした白樺派を顕彰するためにも、学びの旅のためにも、かの地に文学館などを建て、もっと発信するなど大切にした方がよいのではなどと、私見を述べられた。実は、この日は、黒木町長や木城町の半渡町長の恩師でもある、県の元教育長で美術館館長の笹山先生も登壇されており、子弟の会話もあり、会場も楽しく、そのやりとりを楽しませていただいた。

シンポジウム「天に星 地に花 人に愛」実篤と新しき村

笹山先生の深い言葉の中には、少年のように熱い、石井十次と実篤への思いや、教育へかける信念が溢れていた。今でも立志式に出かけられては、次の実篤の詩を引用され、人間力ある大人になることを説いておられる。

「俺達は杉の林 協力するが 獨立する 俺達は人間 協力するが 獨立する」

そして、先生が五ヶ瀬中等教育学校を創立した時、実篤の「天に星、地に花、人に愛」という詩を踏まえた上、「天に学び、地に学び、人に学ぶ。天を学び、地を学び、人を学ぶ。」という理念を実践的な教育の冒頭に唱えられた。世界農業遺産認定にも寄与された学校教育の根底にも、実篤の思想はあったということを学ばせていだいた。80歳近くになられても尚、記憶力が格別なだけでなく、素晴らしい感性の力で、真理の真髄を語られる清らかな言動に、コーディネーターとしても終始、感動するディスカションであった。

最後にパネラーで、40年近く新しき村に住み続けている松田省吾さんが実篤の世界観を次のように語った。「正しい信仰と不正な信仰の違いは、 その信仰がその人の心を清くするかしないかで決まる。」民族や宗教が異なっても、それぞれに心が清ければ、戦争も争いもない。人類に、普遍のあこがれがなければ、人類の共生もない。自己の心を高めるためには、まずは協力、そして独立であって、その逆ではない。協力がなければ独立もない。自己実現は協力の中にこそあるのだからと、語られた。

君も美しい 僕も美しい 
      僕も美しい 君も美しい 美しいものだらけの世界 <br>
      山と山とが讃嘆しあうように 星と星とが讃嘆しあうように 人間と人間とが讃嘆しあいたいものだ
君も美しい 僕も美しい 僕も美しい 君も美しい 美しいものだらけの世界
山と山とが讃嘆しあうように 星と星とが讃嘆しあうように 人間と人間とが讃嘆しあいたいものだ

九州の奥には、すばらしい食に加えて、まだまだ心の糧となるような貴重な宝がたくさん眠っている。まだ触れられ足りていない、地域の天・地・人の魅力を満喫するエコツアーに皆さんを誘っていきたい。新会社アイロード・プラスでは、より充実したパーソナルなプライスレスな体験を共に味わいながら、少人数で心の旅を楽しめるような企画を提供する予定である。また、プラスでは、来春から地域に有能な人材を紹介・派遣し、地域活性化に寄与する事業を開始する予定である。

実篤の「杉林の詩」にあるように、人は、協力の中で自立していく。しかし、最近は、実力ある個人が、企業などで働き、ある時は影に、ある時は日なたになり互いに協力し目的を達成していくことよりも、起業し、初めからフリーの立場で独立する人が多くなってしまったような気がする。思いがある人ほど、すぐに独立してしまう。しかし、今、本当に大切なのは、自立し責任感を持つ心を育むためにも、誰かの夢に自己の夢をしっかりと結び合わせ、協力し合いながら、自らの心を育てようとする、立派な志の若者を育てることなのかもしれない。

農業でも商業の現場でも、若者が新たに起業することよりも既存の方達から学び、苦労しながらも、無駄に思えるようだが、互いに説得し、歩みよりながら切磋琢磨し、新しい時代の業に変革していく努力を若者たちも大人たちもすることこそが、今、地域づくりの中で、実は一番大切な在り方なのかもしれないと感じるようになった。

金ケ浜での禊風景(日向市)

人と人、地域と地域を愛でつなぎたい。
2017年、本当にありがとう。

「福永栄子」署名
  • 愛で人と人、地域と地域を結ぶ(株)アイロード代表
  • 地域交流誌「みちくさ」編集長